論点の整理
結論
成年被後見人がした契約は原則として取り消せます。ただし、食料品の購入など日常生活に関する行為は別です。成年後見人が本人の自宅を売却する場面では、さらに家庭裁判所の許可が必要になります。
最初に「誰が契約したか」を見る
成年後見では、本人が自分で契約する場面と、成年後見人が本人に代わって契約する場面で、使うルールが変わります。成年被後見人本人がした法律行為は、民法9条により原則として取り消せます。後見人が代理して契約した場合は、本人が契約した場合と同じ取消しの問題にはなりません。
例えば、成年被後見人Aが自分の土地をBに売ったとします。売買時に会話が成立していたとしても、成年被後見人であることを理由とする取消しを検討します。「その時だけ判断がしっかりしていたから取り消せない」とはなりません。反対に、成年後見人CがAを代理して売った場合は、Cの代理権や、居住用不動産に当たるかを調べます。
日常の買物まで取り消せるわけではない
民法9条のただし書は、日用品の購入その他の日常生活に関する行為を取消しの対象から外しています。本人が生活のためにパンや洗剤を買うたび、後から契約が覆ると、本人の日常生活も取引相手も不安定になるためです。
ただし、店で購入した物なら何でも日用品になるわけではありません。自宅用であるという理由だけで高額な投資商品や不動産の購入までこの例外に含めることはできません。設問では、取引の種類、金額、日常の生活とのつながりを読み取ります。衣食住に関係するという言葉だけで、日常生活行為と決めつけないようにします。
日常生活行為の例外は、成年被後見人であるという身分を理由に取り消すことを認めない規定です。その取引をした時に意思能力がなかったなら、民法3条の2による無効は別に問題になります。「日常の買物なので、意思能力がなくても必ず有効」と読み替えてはいけません。行為能力の制限と、その瞬間の意思能力は、同じ判断ではないのです。
後見人の同意があっても結論は変わらない
成年被後見人には、後見人の同意を得れば本人がした契約を確定できるという仕組みは設けられていません。未成年者や被保佐人の同意のルールを、そのまま成年後見に当てはめないことが大切です。Aが土地を売る前にCから賛成を得ていても、それだけでAの売買が取消しのできない行為になるわけではありません。
また、「取り消せる」と「初めから無効」は異なります。制限行為能力を理由とする取消しと、契約時に意思能力がなかったことによる無効は、別の根拠です。成年被後見人という身分だけで、すべての契約を当然に無効とするのは誤りです。
本人の自宅を処分するときは家裁の許可
成年後見人が本人の居住用建物やその敷地を売却するには、家庭裁判所の許可を得なければなりません。対象は売却だけではなく、賃貸、賃貸借の解除、抵当権の設定などにも及びます。後見人が本人の財産を管理できることと、住まいを自由に処分できることは別なのです。
本人が入院・施設入所中で現在は住んでいない家でも、居住用不動産として許可の対象になる場合があります。裁判所は、入所前の住居や将来居住する可能性がある住居も含むと案内しています。「今は空き家だから許可不要」と即断しないようにしましょう。許可を得ずにした処分は無効になります。
二つの事例を比べる
事例 | 確認するルール | 結論の方向 |
|---|---|---|
A本人が日常の食料品を買った | 日常生活行為の例外 | 成年被後見人であることだけでは取り消せない |
A本人が土地を売った | 本人の法律行為 | 原則として取り消せる |
CがAの自宅を代理して売る | 居住用不動産の処分 | 家庭裁判所の許可が必要 |
「同意した」と「許可を得た」を事例で読み分ける
+Aが自分で自宅を売る契約書に署名し、Cがその場で「賛成です」と述べた場合を考えます。これはA本人の契約であり、Cの同意があったことだけでは取消しを防げません。後見人が本人の行為へ同意した話を、家庭裁判所の処分許可と同じものとして扱わないことが大切です。
+一方、CがAの代理人として売買契約を結ぶなら、A本人の行為を取り消すかという問いから、Cの代理行為に必要な許可を得ているかという問いへ移ります。設問が「本人は売却に賛成している」「親族全員が了解した」と補足しても、それらの意思と家庭裁判所の許可は別です。
+また、取消しのできる本人の契約は、取り消されるまでは有効なものとして扱われます。これに対し、家裁の許可を欠く居住用不動産処分は無効です。「後で取り消せる」と「無効」のどちらを答えるかは、誰のどの行為が問題になっているかで変わります。
+最後に、契約書へ署名したのは本人か代理人か、取引は日常生活行為か、物件は本人の住まいか、の順に確認すると整理できます。本人の契約を後見人が許可する話と、家庭裁判所が不動産処分を許可する話を混ぜないことが、この論点の要点です。
意思能力・行為能力の確認
意思能力は、その行為の意味や結果を判断する力です。行為時に意思能力がなければ法律行為は無効になります。これに対し、行為能力の制度では、未成年者や成年被後見人などについて、行為の種類や同意の有無に応じて取消しを認めます。両者は同じ契約で問題になることもあります。
間違えやすい点
後見開始の審判がないことから、行為時の意思能力があったと決めないでください。成年被後見人の日用品の購入などには、取消しの例外があります。
例で確かめる
成年被後見人が通常の食料を買う場面と、自宅を売る場面を分けます。後者を成年後見人が代理するときは、居住用不動産の処分許可も検討します。
基礎確認用の補足教材。確認問題に用いる基準は各問題に表示しています。
- 民法:民法3条の2・9条・859条の3
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出典・参照資料
- 民法(e-Gov法令検索)確認日 2026/10/27
- 成年被後見人等の居住用不動産の処分についての許可(裁判所)確認日 2026/10/27
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