まず、どの損耗が借主負担かを確認する
民法621条では、通常の使用収益による損耗と経年変化は、原則として借主の原状回復義務から除かれます。故意・過失、善管注意義務違反等による損耗は、別に検討します。
家具を通常に置いた床のへこみと、飲み物をこぼして放置したため生じたしみは、原因が異なります。退去時に傷みがあるという結果だけで、すべてを借主負担としないようにします。入居時の写真や修繕履歴と対応させて、発生時期も確認します。
負担する範囲と、部屋全体の工事を分ける
一部に借主負担の損耗があっても、室内全体の更新費用を当然に請求できるわけではありません。損耗箇所、施工単位、補修の合理性、色合わせ等を確認します。業者の見積りに一式と書かれていることだけでは、借主の負担範囲は決まりません。
例えば壁の一面に損耗がある場合、その一面の補修と、別の無傷の部屋の張替えは分けて考えます。工事として同時に行うことと、借主へ請求できることは別です。
経過年数は、入居年数と同じとは限らない
国土交通省のガイドラインでは、設備や内装の性質に応じて経過年数等を考慮します。前回の張替えからの期間と、現在の借主が住んだ期間は、必ずしも一致しません。
クロスが入居前から2年使われ、借主が4年居住したなら、張替えからは6年です。入居時から新品だったと仮定して4年だけ計算すると、使用済み部分の価値を過大に請求する可能性があります。
確認すること | 必要な資料・考え方 |
|---|---|
損耗の原因 | 入退去時写真、申告、点検記録 |
工事の範囲 | 箇所、面積、施工単位、補修可能性 |
経過年数 | 設置・張替え時期と履歴 |
特約 | 合意内容、説明、明確性・合理性等 |
単純計算は、前提を明示して使う
学習用に、新品時のクロス費用3万6,000円、6年間の直線的な価値減少を想定し、4年経過、残価や細かな工事条件を省略します。残る割合は2年÷6年で、単純な残存価値は約1万2,000円です。
この数字は、退去精算の全項目へ一律に使う公式ではありません。実際には月単位の経過、最低残価、負担する施工範囲、経過年数を考慮する費用としない費用等を確認します。設備ごとの年数を、すべてクロスと同じ6年へ置き換えないでください。
清掃特約は、書いてあれば何でも有効ではない
通常損耗等を含む借主負担の特約や退去時清掃の特約は、内容の明確性、合意、説明、金額や負担の合理性、消費者契約法等との関係を確認します。契約書に一行あることだけで、どんな請求も認められるとは限りません。
反対に、特約はすべて無効ともいえません。何を誰が負担する約束か、借主がどの条件を理解して合意したかを特定し、一般原則と分けて検討します。
見積り全額を、残存割合で一括計算しない
見積りにクロス代、清掃、鍵交換、設備交換が並んでいても、合計額へ一律に残存割合を掛けるのは適切ではありません。各項目の負担原因、特約、工事範囲、経過年数の考慮方法が違うためです。
例えば損耗が確認できない鍵の交換を、借主が4年住んだからという理由だけで請求することはできません。工事が実施されるかと、借主に負担の根拠があるかを分けます。精算書を一項目ずつ説明できるか確かめると、不要な請求と必要な説明の漏れを見つけやすくなります。
請求明細は、根拠が追える形にする
項目ごとに、損耗、負担理由、工事範囲、単価・数量、経過年数、借主負担額を示します。貸主が退去を機に設備全体を更新する希望と、借主の原状回復義務を混ぜないことが、説明の納得感につながります。
敷金から差し引く場合も、請求根拠が不要になるわけではありません。敷金返還と入居時記録で、精算と証拠のつながりを確認してください。
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出典・参照資料
- 原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(国土交通省)確認日 2026/10/28
- 民法(e-Gov法令検索)確認日 2026/10/28
- 国土交通省:原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)確認日 2026/10/28
- 国土交通省:原状回復ガイドラインのQ&A確認日 2026/10/28
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